エッセイ · 嗅覚アート
オスワルド・マシア「Under the Horizon」。
Oswaldo Maciá. Under the Horizon.
下でしか育たないものがある。
台座の上の浴槽
部屋の中央に台座がある。その上、目の高さに浴槽。蛇口は開いたまま流れ続け、誰も閉めない。流れ出るのは澄んだ水ではない。黒い。
オズワルド・マシアの「Under the Horizon」に入った来場者が見るのは、それだけだ。人物も、壁の解説も、絵で語られる物語もない。台座は彫刻の約束事で、その上にあるものは見るに値すると告げる。けれど長く見るほど、何かの情報が欠けていると感じられてくる。
マシアはコロンビアに生まれ、ロンドンで暮らし、制作している。彼は自分のつくるものを、嗅覚と音響の彫刻と呼ぶ。彼にとって匂いと音は、石やブロンズや木と並ぶ、本物の彫刻の素材である。空間を占め、量をもち、輪郭をもつ。ただ、その輪郭は目には見えない。
「下」の匂い
作品の第二の部分は空気の中にある。マシアは調香師リカルド・モヤ(Ricardo Moya)に、「下」という言葉の匂いをつくるよう依頼した。抽象的な言葉である。それだけでは何も意味せず、何か別のものとの関係の中でのみ意味をもつ。
それに匂いを与えるため、二人は土の中へ向かった。香りは土の下で育つもの、具体的には種から採ったニンジンに基づいている。来場者は、なじみのある、土っぽく、少し甘く、少し鋭い何かに気づく。けれど部屋にニンジンはない。匂いは、その物なしに届く。
その隔たりが人を落ち着かなくさせる。私たちは、匂いを結びつける像があることに慣れている。像がないと、頭が働かなければならない。これはどこから来るのか、あの黒い浴槽と何の関係があるのか。
ミシンと人工の雨
第三の部分は音で、マシアはそれを「Under sound」と呼ぶ。録音したのはブルガリアの大きな工場で、世界各地の紛争に向けた軍服をつくっている。布を縫い続けるミシンの、一定で密な音に、人工の雨の音が重ねられている。
来場者は、音の出どころを知らないかもしれない。聞こえるのは途切れないざわめき。雨のような、機械のような、どこかで何かがつくられているような。作品について読んではじめて、戦争で着られる服がつくられる音を聞いていたと知る。
こうしてマシアは、ほとんど空っぽの部屋に地政学を持ち込む。スローガンによってではない。私たちが注意を向けるものの下に横たわる音によって。
ひとつの作品の8年
「Under the Horizon」は2011年、ベルリン近郊のシュロス・マルクヴァルト(Schloss Marquardt)で、Rohkunstbau XVIIIの一部として初めて展示された。マシアはその後も何年も作品を発展させ、彼が付ける制作年は2011年から2019年である。2017年にはグラン・カナリア島ラス・パルマスのアトランティック近代美術センター(Centro Atlántico de Arte Moderno)で、2019年にはバレンシアのespaivisorで、展覧会「Geopolitics of Nature」の中で展示された。
2018年には Art and Olfaction Award を受賞した。匂いを中心に据えた作品に贈られる賞である。写真に撮れるものがほとんどない作品にとって、注目すべき評価だ。
部屋を出たあとに残るのは、浴槽の絵ではない。何かがまだ流れ、まだ育ち、まだ縫われ続けているという、しつこい感覚だ。私たちに見える地平線の下の、どこかで。